TOM☆彡と呼ばれて 〜Pnaさんとの出会い〜 中学生のとき、修学旅行での宿泊先。 某ホテルにて引率職員の宴会も済んだころ部屋のチェックも終わりし〜んと静まっていた。 「おい、ちょっと自販機でビールでも買って飲もうぜ」同級生の坊ちゃんがそう言った。 「あ〜お前、酒飲むと癖が悪くてなあ・・・」アコは以前の彼の失態を思い出していた。 「ま、いいからいいから」 そんなことで小銭を抱えて自販機を探して階下に降りていくと、何やら女性の集団に出くわした。 暗がりの中でもわかる褐色の肌から「にこ」っと笑顔を見せると白い歯が浮き上がっていた。 「こんばんわぁ〜」 「あ、こんばんは。」 「まだ寝るないですかぁ」 「あ、今から・・・」 「何してるですかぁ」 「ビール・・・」 「ビール?あ、こちこちあるだよ」 自販機を案内してもらった。 誰かが言った。 「だいじょぶぅ?ビール飲むですかぁ?」 「はい。」 「ふ〜ん。よかたねぇ」 「はあ・・・」 そんな会話だっただろうか・・・。 翌朝、朝食を摂りバスへと乗り込むため玄関に集合した。 すると、まだ寒いと言うのにタンクトップの派手な衣装でホテルの入り口に10数人並んでいた。 「あ〜?こんな寒いのに???」 そう思いながらも彼女たちを直視できずに下を向いてバスへと向かった。 「お兄さん。また来てくださいねぇ。」 「あ、はい。また・・・寒くないの?」 「さもぉ〜いよぉ。んふふ・・・」 すると担任の先生がこう言った。 「なんだ、お前知ってるのか?」 「いえ、昨日の夜ちょっと廊下で・・・」 「ビール探したですぅ。」と彼女が言った。 (あ”っ・・・やばいっ) 「教頭先生かあ。しょうがないな。さっ乗り込め。」 先生は勝手に教頭先生の使いだと思い込んでくれた。 数年後、この先生と、とある都市のPPでばったり会うとは夢にも思わなかった。 褐色の肌と白い歯がやたらと目に焼きついていた。 バスの中で先生と隣の席に座った。 「あの女の人はどこから来たんですか?」 「多分、フィリピンだろうな」 「フィリピンですか・・・。」 「何だ、興味あるのか?」 「・・・言語は英語ですか?」 「ん〜スペイン語だろうな、統治されていたからな。」 「スペイン語ですか・・・。」 観光地先に行くと本屋に入り、スペイン語の辞書を探していた。 英語も覚束ない自分が無心にスペイン語の辞書を探しまくった。 「もう一度、会いたい。会って話がしたい。」 ただそれだけだった。 中学2年から生徒会長をしていたせいか、旅行先で書店に入ろうが周りは意に介していなかった。 それどころか「お前、最後の旅行なんだから参考書は帰ってからにしろ」などと言われた。 考えてみると名前も何も知らなかった。 これが記憶にある最初のPnaさんとの出会いだった。 今では顔も思い出せない。 〜初めてのPnaさん〜 高校に進学すると通学路にある公衆電話で大きな声で話しているPnaさん(?)の集団を見かけるようになった。 ある日、わけのわからない言葉で何か2、3人で騒いでいるところを通りかかった。 何気に見ると目が合った。 「にこ」っとこっちを見ながら会釈する。 「すませぇん。じゅえん、チェンジできますかぁ?」と聞かれた。 「は?」 「じゅ〜ぇ〜んあるますかぁ?」 「ChangeMoney?」と聞き返した。 「Ye〜s!」 インベーダーゲームなどに興味もなかった自分は小銭だけは持っていた。 「ここの電話は100円玉もOKだよ。」 すると1000円札を出してきたので細かいお金をポケットから全てだして両替してあげた。 「あるがとねぇ〜お兄さん」 それから約1年が過ぎた。 高校2年の夏休み前であった。 近所のラーメン屋に行くと親父がこう言った。 「ぼく〜!あそこの高校に行ってるでしょ?ちょっとうちのママと話ししてくれないかな?」 「はい。」 座敷の奥から「ママ」と呼ばれる奥さんが出てきた。 「あ〜お兄ちゃん、悪いわねぇ。うちの息子が今度、進学するのよ。でさぁ・・・」 話を聞くと家庭教師の依頼だった。 夏休みの間だけでもいいから教えに来てくれないかと言う。 「部活が終わってからならば」と答えた。 「ちゃんとお金払うからね。」と言うママに対して「ラーメンかカレーライス」でいいと答えた。 自分の家庭環境が複雑であったため、条件は食事で満足だった。 しかし、子供可愛さか一日5000円を払うと言う。 よくそんなに払うなんて簡単に言うもんだと感心した。 まあ、貰えるんなら・・・。 ある日、部活もなく夕方から深夜にかけて息子さんと勉強をしていた。 「お兄ちゃん、そろそろ今日はお開きにして店の方に来て。」 酒の匂いをさせたママに施されて店に向かった。 すると褐色の肌をした子たちが7〜8人いた。 酔っ払った親父たちも一緒だった。 「今日ね、お店休みなのよ。だからさぁ、こうしてお客さんが女の子とここで飲んで遊んでもらっているの」 「はあ・・・」 今で言えば、自分の旦那のラーメン店で「休日デート」をさせているようなもんだ。 すでに時間も深夜3時近くなっていた。 ぞろぞろとお会計をして帰るお客さんたち。 それにしても餃子・ラーメン・ビールとよく食べ、飲む女の子たち。 考えてみれば女の子の貴重な食事であり、店の売り上げでもあるはずだ。 「お兄ちゃん、お酒飲める?・・・わよね。」 「はい。」 「じゃあ、ビール。うちのパパは下戸なのよぉ。」 「はあ・・・。」 「あ、女の子呼ぶわね。いい子を呼んであげるから。」 「あ、いいですよ。」 「テス!レン!こっち来なさい!」 白い肌のテスさんと褐色の肌のレンさんが目の前に座った。 隣にはママさんだ。 ビールをかれこれ5本も飲んだだろうか。 「そろそろ帰ります。」 「あら〜今日は泊まって行きなさいよ。」 「いえ、近くですから帰ります。」 「あら〜電話してあげるわよ。」 「いえ、大丈夫です。」 「お酒飲んで帰ったら怒られるわよ。きゃはは!」 「はあ・・・」 「ねね、お兄ちゃん、どっちの子が好き?」 「はあ?」 「どっちでもいいわよ。」 「はあ?」 「またぁ〜きゃはは。初めてじゃないでしょ?」 「はい?」 「はいじゃないわよ。童貞じゃないでしょ?」 「はあ・・・」 「まあ、もう少し飲みなさい。日本酒いける?」 「はい。」 日本酒を注がれた。 「お兄さん、だいじょぼですかぁ?」 と、テスさんが聞く。レンさんはとなりでニコニコと笑っている。 「今日はお兄ちゃん、泊まっていくからね。ちゃんと面倒見なさい。」 そう言いながらぐびぐび飲み干すママさん。 「お兄さん、ちょとせんたこ(洗濯)。ちょとまてて」 「はい。」 少しの間、ママさんと話をした。 「この子たちはねぇ・・・いい子なのよぉ。」 「はい。」 「国に帰ったら食べるものも無くてね、仕送りして家族を助けているんだから。」 そういいながら涙ぐむママさん。 いろいろと話を聞いているとやるせなくなることばかりだった。 彼女たちが戻ってきた。 「ママさん、もう寝てたがいいです。」 そう言われるとママさんは奥の座敷へと消えていった。 「じゃあ帰るから」 「も、おなかいっぱいですか?」 と、テスさんが聞いてきた。 「はい。また明日来ます。」 するとテスさんとレンさんでなにやら話すと 「お兄さん、きょ帰るは怒るママさんです。」 「はあ?」 「だめだめ、こっち」 案内されていくと店の裏側にあるプレハブだった。 部屋の中は薄暗く、ぽっかりとロウソクの明かり。 ダンボール箱の上にあるロウソクと壁に貼られたキリストの絵。 「これ何?」 「神様見てるだから。毎日プレイする。」レンさんがそう言った。 「・・・???」 「も、寝てたなさいな。」 「うん。」 薄暗い部屋は凡そ6畳間だろうか。 押入れのすぐそばの布団に横になったが段々と暗さに目が慣れてくると5,6人寝ているようだった。 隣にレンさんが横になると質問された。 「家族は?」 「兄弟は?」 「何歳?」 「勉強してるか?」 一通り答えるとレンさんが小さな声で話し始めた。 家族と離れてさみしいこと。 家族のためにがんばること。 フィリピンでは仕事がないこと。 いずれは家を建てたいこと。 うとうとと話を聞いていると「あなたもっ 寝てたなさい。」そう言った。 静かに目を閉じたが、酒のせいか目がさえてしまった。 「ちょと水飲んでくるね。」 「ちょとまて。コークだいじょぼか?」 「はい。」 300mlの瓶のコーラを持ってきてくれた。 一気に飲み干して横になると、また「もっ 寝てたなさい。」と一言。 それから15分か30分かは定かではないが、ふと目を開けた。 すると暗闇の中に自分の瞳を捉える輝きが目に映った。 「ん?」 「し〜・・・みな寝てるだから・・・」 「(うん)」静かに頷いた。 「ねもりないか?」 「うん。」 「○■☆・・・」 「ん???」 「だいじょぼ。心配ない。」 「うん・・・」 静かにアコを抱きしめ、唇を重ねてきた。 「あ、ちょっと待って」 「し〜」と口を押さえた。 「・・・」 舌を絡ませ、アコの髪をかき乱した。 若い自分が反応するには十分すぎた。 やがてトランクスに彼女の手が延び激しく握り締めた。 「がっこ終わたら、たぼん あなた女えっぱいな。」 「え?」 「だいじょぼ、はじみてか?」 「違う。」 「そか。すぐいね。ポギなまん。」 「何?」 「あなた、いっ おとこ。」 「そんなことないけど。」 指先でアコの鼻の頭を抓ると彼女の手で彼女の中に導かれた。 「んっ!しっ!」 息遣いが荒くなる彼女に時折、頬を叩かれた。 「怒っているの?」 「ちがっ!し〜」 アコは黙って暗闇に浮かぶ瞳を見つめていた。 「・・・もう我慢出来ないよ。」 「あの?」 「ん・・・とね・・・Go to Finish」 「Finish?」 「もう少し・・・」 「・・・いよぉ・・・おいで」 「・・・うん。」 そのとき初めて彼女に自ら抱きついて、そのまま果てた。 「気持ちいいかったかぁ?」 「うん。・・・ごめんね。」 「どしてごめんね?」 「なんでもない。」 「ば〜けぇ〜っと?」 「何?」 「わら」 「ん?」 「んふふ。タガァロォゴわかるないねぇ。」 「ん?」 「んふふ。」 「あの・・・子供出来たらどうするの?」 「くども?・・・だいじょぼからぁ。」 「ん・・・」 「ねもいたこなったか?」 「もう少し、話ししてから。」 「ねもりなさいな。」 「フィリピンはどんなところ?」 「あちゅい。まにち あちゅい。」 「フィリピンで仕事出来る?」 「誰?イカウ?」 「イカウ?」 「イカウ・・・あなたぁことイカウ」 「うん。・・・仕事あるかな?」 「どしてぇ?ないよぉ。」 「フィリピンに行こうかな。」 「ん・・・あなたぁ もともとぉ べんきょなぁ・・・」 「うん。学校終わったら行くよ。」 「・・・どして?」 「レンさんのところに行って見たい。」 「おうちぃ・・・ちちゃい。はぞかしからぁねぇ。」 「恥ずかしくないよ。大丈夫だよ。」 「あなたやさしからねぇ・・・」 「そうじゃなくて・・・フィリピンに行くよ。」 「わかた。待てるからぁ。寝てたなさいなぁ。」 彼女は当時22歳だと言っていた。 もうすぐ17歳の誕生日を迎える少し前の夏のことだった。 〜初めてのPP〜 夏休みも明けたある日、ママに呼ばれた。 「あれ?家庭教師は終わったのに・・・」そう思いながらラーメン屋に行った。 「悪いわね。この子が泣いているのよ。」 「どうしたの?」 「ん・・・ほら、わかるでしょ?お客さんとさぁ・・・これしたくないってさ。」 「はあ?」ママの言う『これ』の意味が理解出来なかった。 「ほら、こんなことお兄ちゃんに言うのもなんだけどさぁ・・・お客さんも男でしょ?」 「はい」 「だから本当は、いけないんだけどね・・・。ちょっとお兄ちゃんと話したいみたいだからさ。」 「はあ・・・。」 そう言われて彼女の話を聞いてみた。 ママさんの大切なお客さんだと言う。 お客さんの希望でお金を払うからホテルに付き合って欲しいとのことだった。 「それは駄目だよ。売春じゃないか。」そう言った。 若気の至りか、世の中を何にも知らないのか自分からママさんに提言することにした。 「ところでそのお客さんは、いくらくれるって言うの?」 「わかるない。たぼん、3ま円かな4ま円かな。」 「レンさんはお金が欲しい?」 「ほしきど、それの仕事嫌い。」 「そっか・・・でもお金送るんでしょ?」 「あるだたら・・・送るするしたい。でもしょがない。」 「しょうがなくない。ちょっとママと話しするね。」 ママと話をした。 「どうだった?」 「いろいろ話をしました。」 「そう・・・どうしようかしらねぇ。」 「ママさんもう少し、家庭教師を続けさせて欲しいんですけど。」 「部活はどうするの?」 「やめるから。」 「それはいいんだけれど・・・。」 「で、食事はいらないから6000円くれますか?」 「お金に困っているの?」 「はい。」 「ん〜いいわよ。」 「レンさんのことですが、お客さんはお店にいくら払って、いくらレンさんに渡すんですか?」 「それは関係ないでしょ?」 「はい。」 「お店のことには口を挟むもんじゃないわよ。」 「はい。」 「・・・でも、お兄ちゃんだから話してあげるわね。」 「はい。」 「3万円のときは女の子に1万5千円から2万円あげるの。  うちも商売だから何かあっても困るしね。保険見たいなもんよ。」 「・・・保険ですか。週に何回ですか?」 「まあ、1回か2回よねぇ・・・。どうしたの?」 「・・・生意気なんですが・・・僕が負担します。」 「はぁ?」 「家庭教師に毎日来ますから。そのバイト代をレンさんの分に充ててください。」 「あんた うちの子もレンも助かるけど・・・それでいいの?」 「はい。」 「はぁ〜〜〜〜〜???呆れたわ。」 「毎回お客さんとホテルに付き合うわけじゃないんですよね?」 「そりゃあ、女の子の気持ち次第よ。ただね・・・大事なお客さんもいるでしょ?」 「はい。」 「そればっかりはね・・・」 「ママさん、僕が社会人になったら客になりますから、お願いします。」 「あはははっ!お兄ちゃんの将来ね・・・」 「駄目ですか?」 「ちょっと待って・・・レーン!ちょっとおいで。」 タガログ語でママさんと彼女が会話を始めた。 彼女が言った。 「はぞかしぃ・・・でも、あるがとね・・・。」 「恥ずかしくない。だからがんばってね。」 ママが言った。 「お兄ちゃん、明日は日曜日だから今夜うちのお店いらっしゃい。」 「学生ですから、まずいですよ。」 「わかってるわよ。お兄ちゃんを気に入ったわ。私もねぇ・・・」と語り始めた。 そのママさんは、某稼業の親分の娘さん。 パパさんはそこの元若い衆。やがて二人は恋仲に落ちるも実らぬ恋。 色々あったらしいが、パパさんが足を洗うことで認めさせたらしい。 そんなわけで17歳と約1ヶ月にして初めてのPP体験。 アコは店に着くとボーイさん、タレントさん達と一緒に、 掃除から始めて2時間ほどしてから擬似お客さんへと。 そして彼女が終始となりにいてくれた。 ちょっとほろ酔い加減の彼女は 「I need you!I want you!」と繰り返した。 そして「あい!お名まい なんですか?」 「あれ?知らなかった?・・・○○○だよ。」 「???」 「○○○」 「???」 「発音難しいかなあ・・・」 「・・・TOM&JERRY知ってろますか?」 「うん。」 「わたしそれ好きからぁ・・・TOM!」 「???」 「TOMでいい!」 「あはは・・・」 「ママさ〜ん!シャの名前TOMしゃん!いですかぁ?」 ニコニコと笑うママさん。 お客もまばらな店内。 「TOMしゃん!200円ちょだい!」 「はい?」 「カラオケする」 「恥ずかしいから・・・それにまだ学校行ってるからお客さんが知ってたら怒られる。」 「じゃ、いよ。私ね。」 自分で小銭を入れて今では懐かしい当時最新のレーザーディスクをセットした。 「TOMしゃんこと ために 歌うするだからね。」 そう言って『OnlyYou』を歌ってくれた。 Only you〜♪ その後、会うたびにいつも歌ってくれた。 喋るとハスキーだけれども歌うと甲高い声が今でも耳に残っている。 その夜、当然の如くプレハブの家に出向いた。 背中を向けて、いわゆる「コアラちゃんスタイル」で寝ただけだった。 それからママに断っては二人で土曜日の学校の帰りに、 映画を観に行ったり田んぼの畦道を散歩をした。 月に一度程度、店に呼ばれては、お客さんのサクラをした。 彼女が帰国するクリスマスの2日後だったことを覚えている。 クリスマスの日には彼女から手紙と彼女がカラオケで録音したカセットテープをもらった。 「寒いから」とあげた手袋のプレゼントを見た彼女は屈託無く笑い転げた。 「どうしたの?」と聞くと 「フィリピン帰たら暑いよぉ。」 「あ、そっか。」 「だいじょぼ。またくろからね。」 「うん・・・。」 そして2日後の明け方、ラーメン屋まで出向くと「プロモーター」なる人の ワゴン車に大量の荷物を詰め込んでいた。 拙い英語で書いた手紙を渡すと、彼女も手紙をくれた。 そのとき、「あ〜同じ気持ちなんだ」と確信した。 その夜、約束どおりに電話をしてみた。 初めてなのでKDD(現KDDI)のオペレータを使ってみた。 番号を告げると、ちょっとこもった呼び出し音。 ぷるるる〜ぷるるる〜「へろっ!」 どきどきしながら「Hello! Over Seas Call From Japan, Can I talk to...」 「たわっぐなぁ!はぽぉん!だりぃ〜!おぉべるしぃずぇ!」 少し待つと彼女が出た。 「どしてあなたぁ?」 「電話するって言ったでしょ。」 「はぞかしからぁ。んふっ。メリークリスマス&ハッピーニューイヤー!」 「・・・うん。」 いつもと違う対応に違和感を覚えた。 「じゃあ、また後で電話するね。」 「ごめんねぇ・・・」 そのとき少しだけ寂しくなった。 そして週に1回は電話したのだが、どうやら田舎に帰っているらしく常に不在だった。 それから約1ヶ月半。 帰宅すると父親が血相を変えて殴りかかってきた。 どうやらKDDからの請求書を見たようだ。 大方、予想がついていたので宛名は自分名義にしてもらっていた。 「フィリッピンに電話してるのか!この野郎!」 「電話代ならアルバイトのお金で自分で払うから。」 「何〜!この野郎!あいつらは、『じゃぱゆき』って言ってなあ・・・2度と電話すんじゃねぇ!」 「何それ?お父さん、差別でもしてるの?」 「口答えするな!この野郎!今後、一切電話するな!」 「・・・じゃあ、これからは駅で電話するから。家では電話しない。」 「何〜!電話するなって言ってんだろ!」 「何故?」 「言うこと聞け!」 「聞けない。」 「じゃあ、出て行け!」 「わかりました。」 「今すぐ出て行け!」 「はい。出て行きます。」 「みっともないのがわからないのか!」 「みっともなくないよ。何がみっともないの?」 「お前はまだわからないんだ!」 「少しずつ勉強するから、後悔してないよ。」 「あんなのと関わっているとな・・・」 「あんなのって?」 「お前はきちんと進学して、いいところに就職すればいいんだ!将来を決めてないだろ!」 「自分は外交官になってフィリピンに行くから。」 「何が外交官だ!」 「とりあえず出て行きます。」 教科書と辞書と下着とYシャツをリュックに詰め込んだ。 そして彼女からもらった手紙の束を学生かばんに詰めて出て行った。 それから、しばらくは可愛がってくれた爺さんの納屋に泊めてもらうことにした。 結局、努力が足りず外交官には届かなかったけれど・・・。 約3,4ヶ月後、ある日、家庭教師に行くとママさんが嬉しそうに呼んだ。 「TOMちゃん!レンが帰ってきたわよ!ちょっと会っていきなさい。」 「はい。」 嬉しさを堪えて裏のプレハブの家に出向いた。 「ごめんねぇ。電話いちゅも貸して貸してだからぁ。おろさぃだってぇ。」 「うん、いいよ。また会えたね。」 「イカウちゃんとべんきょすてたかぁ?」 「うん。ちゃんと学校に行ってるよ。」 「そかぁ。アコぉ電話ぁ・・・あなたのバハイ。おとさんかなぁ、おこてる見たいだた。」 「大丈夫だよ。」 「ふんとにぃ?」 「うん。自分が喧嘩してただけだからね。」 「がっこいちゅまで?」 「3月まで。」 「だえがこ(大学)えこ(行く)でそ?」 「うん。」 「がんばてなぁ。」 「うん。」 「たまにたまに会うする二人なぁ。」 「うん。」 「今からシャワーからねぇ。」 「うん。」 それから・・・次に帰国するころまでに彼女は店のNo.1になっていた。 もちろん会う時間もなくなり、同伴でうまく客をあしらう術も身についていた。 いつの間にか足も遠のいた頃、帰国してしまっていた。 何度か手紙を送ったが、いつの間にか返事も来なくなった。 高校の卒業式の後、一足先に車を買った友人が迎えに来た。 「おう!あそこのストリップ行こうぜ!」 「ストリップかあ・・・」 「気晴らしにさ!お前とも会えなくなるしな!」 「ま、いいか・・・」 初めて入ったストリップ劇場。 舞台にあがってじゃんけんして良くもまあ・・・などと思っていると友人が声をかけてきた。 「おい、個室行って来いよ。」 「何それ?」 「フィンガーサービスだよ。」 「はあ?」 「もしかするとリップサービスかな。」 「何だそれ?」 「いいからいいから。サービス券もらってるんだから」 「ふ〜ん・・・。」 そう言いながら奥の隠れた部屋の前に並んだ。 「もっ!いやぁ!」 「お客さんだからね」 そんな声が聞こえてきた。 この微妙なアクセントは日本人ではないことが明白だった。 数分後、案内されて3畳程度の部屋に入ると、一世風靡した あのアグネス・ラムさんを彷彿させる褐色の美女が裸で座っていた。 「これだけね。」と言うと無表情にそして哀しげに右手を上下させる仕草をした。 「どこから来たの?」 「???わかるない。これだけね。」そう言いながら同じ仕草をした。 「Just moment!」そういうと不思議な顔をして見つめた。 「Where did you come to Japan?」続けて精一杯の英語で尋ねた。 「Philippines 時間ない」その子はズボンに手をかけた。 「Just moment!」 「時間ない」 「No Thank you!」 きょとんとした顔で見つめる子。 「What your name?」 「Hellen」 あの子と同じ名前だ・・・。 何でこんなところで働いているんだ? 聞きたいことや不道理な気持ちが沸いてきた。 ・・・これが現実なんだ。 急に素っ裸でいるその子をいたいけなく思いポケットから3000円を渡した。 すると満面の笑顔になった。 とても可愛い笑顔だった。 「お金をあげることは本意ではない。でもいいじゃん、この笑顔を買ったんだ。」 そう自分に言い聞かせて部屋を出た。 ヘレンは「baby!salamat!」そう言ってくれた。 「salamat」が「ありがとう」だと知ったのは数年後だった。 数年後、僕はとある行政機関で働いていた。 人並みに恋もして、別れもした。 「電話ですよ。」と呼び出された。 すると久しぶりに聞く声がした。 「TOMちゃん、元気?ママだけどね・・・」 「あ〜どうも。よくわかりましたね。」 「あの子が千葉に帰ってきたってさ。電話あったよ。TOMちゃんに会いたいってさ。」 「え?」 「ずっとねぇ、うちの店で取れなかったら、あっちこっち行ってた見たいよ。」 そういや、何度もリクエストしてるって言ってたっけ。 その都度、リクエストする子の写真を見せてもらっていた。 そのママの店のリクエストの子はほとんどはアコに選ばせてもらっていた。 あれからもう4年?5年?あれ?今、何歳になるんだ? 26?27歳か・・・ 「千葉のどの辺ですか?」 「電話番号聞いたから教えてあげるね。たまにはうちにも来なさいよ。」 お昼休みに電話をしたが誰もでない。 そりゃそうだろうな・・・。 昼間は営業してないし、タレントさんのアパートだとしても寝ているだろうから・・・。 (当時は「タレント・バハイ」などと呼ぶことさえも知らなかった。) 教えてもらった電話番号の市外局番から凡その見当をつけた。 げっ!遠い・・・。 一番近いところでも3時間、遠いところで5時間だ・・・。 幸い、その日は前日までの会議の出張復命をしてほとんど手は空いていた。 「よし!午後から年休取ろう。」と決めて係長に声をかけた。 「これかい?」と小指を立ててニヤニヤと笑っていたが 「無理ばかりさせてるからな、たまにはいいよ。」と言ってくれた。 僕は愛車「白い流星」と呼ばれていた「なんちゃってポルシェ」に乗って走り出した。 遠い・・・遠すぎる。 途中、夕方3時ごろから電話をしてみた。 タレントさんが出るも話が通じない。 どうやらレンの店での名前が違うようだ。 しかし凡その見当がついた。あと、1時間が射程距離だった。 4時ごろ電話してみるも、やはり本人がわからない。 アパートの住所をわかる子に変わってもらい教えてもらった。そして交番へ。 アパート発見! 何人か代わる代わる話をしてみるとやがて「あ〜〜〜!きの(昨日)来たばかりの女ぁ?」と言われた。 4,5分ほど待っていると部屋から出てきた。 顔を抑えて俯きながら「どしてぇ?」とニコニコした顔で言った。 いささか老けたと予想していたが、かえって若返ったようだった。 「久しぶり。」 「どしてここわかる?」 「ママさんから電話もらったんだ。探してきたよ。」 「何時間ある?」 「4時間くらいかな?」 「遠いね・・・。」 「元気だった?」 「前・・・ふこおか(福岡)とか、なぐや(名古屋)とか・・・遠いだよ。」 「うん。心配してたよ。」 少し黙りこんで顔を上げて笑顔に戻ると 「びっこりすたぁ〜!」 と急に抱きついて来た。 今なら「アコもびっこり〜!」なんて言えたんだろうけれど。 「ご飯食べれる?話しようよ」 「システムあるからぁ・・・。それ同伴なるだよ・・・。」 「同伴?」 「ママさんのお店同じ、お客さん一緒お店・・・あなた遠いでぃば」 「う〜ん・・・お店何時から?」 「8時。でも同伴は9時だいじょぼ。」 「いくらくらい?」 「ちょとまてて。聞いてるから」 そう言って部屋に戻った。 「たぼん・・・ママさんとこ同じんかなぁ。きの来たばかりからぁ。」 「じゃあいいよ。まだ郵便局のATM空いているから、一緒に行こうよ。」 「・・・がっこ(学校)終わったかぁ?」 「うん。仕事してる。心配ないよ。」 「じゃ、スタッフ話する・・・」 そのままイトーヨーカ堂へ出かけた。 スリッパにタンクトップ、短パンの彼女の姿は久しぶりだった。 ジーンズはあると言うのでスニーカーとTシャツを買った。 初めてのプレゼントにした。 なぜか、それが無性に嬉しかった。 食事をしながら聞かれた。 Q@「ぴりぴんお店行ったか?」 QA「どしてタガログへたこそ?」 QB「恋人出来たか?」 A@ママさんのところにたまに遊びに行った。 AA手紙の返事も来ないので疎かにしていた。 AB日本人の恋人が出来たけれども、アクシデントで亡くした。    そして今でもその子が好きだと言った。 ありのまま伝えた。 彼女もこれまでの出来事を教えてくれた。 あっというまに3時間が過ぎた。 9時少し前、店内に入る。 ママさんの店以外では初めてのPPだった。 「な〜いすこぉ〜っぽ」 周りのタレントさんがそう言った。 「なんて言ってるの?」 「ほたり(二人)Nice Coupleだってぇ。」 「ふ〜ん・・・」 なんだか店内に入ると急に懐かしさが覚めてきてしまった。 「明日、仕事があるから今度土曜日に来るよ。」 そう言って同伴の1セット90分のうち、30分を残して店を後にした。 翌週、近くにビジネスホテルも予約して早めに出かけた。 同伴からラストまでいるつもりだった。 約束の3時にアパートへ着くと2人で出てきた。 初めて日本に来たタレントも一緒にお願いしたいと言ってきた。 「それなら自分も友達も誘ったのに」 「今度お願いねぇ」と言っていた。 同伴して1セット終了間近な頃、彼女の客が来た。 彼女の困った表情から一瞬にして「あ・・・恋人だな」そう思ってヘルプの子に聞いた。 「・・・わかるない」 「そっか・・・」 「だいじょぼよ」 「うん。いいよ。ありがとう。」 それっきり店に電話をすることも無く、足を運ぶことも無かった。 また、彼女からも電話も無かった。